――そう決心してから、どれくらい経っただろう。まだ、そのアッサムだかストレートだかといったお茶は出てこない。やめてよ、出してくれるなら早く出してよ。なんか、怖くなってくるじゃない。

 「いいにおーい」と、のんびりした声が上がる。

 「そういえば唯子、宿題はなにが出たの?」と、健人が穏やかに、今なお片手を妹に独占されながら、目の前の妹へ尋ねた。

 「いっぱい」と、妹は答える。「問題冊子が各教科一冊とか二冊あって、あとは作文」

 「読書感想?」

 「そう」

 「手、つけた?」

 「まだいいの」

 「終盤に焦っても知らないよ?」

 「健兄こそ、宿題ないの?」

 「ないようなものだよ。やろうと思えば二日もあれば終わる」

 ……はい? いや、結構な量出されたけど……。あれを二日で終わらせるって? 妹の前でかっこいいふりをしたい、という感じでもないし、本気で言っているのだろう。まじか、この人すごすぎる。

 やっぱり、神様って意地悪だ。この人にはこんなにいろんなものを与えて、わたしにはなんだ、自分で使うお金が欲しくてファミレスでバイトしたら、同級生の、すべてを持っているような、桜庭健人なるこの男にそれを弱みとして握られ、そこに付け込まれ、こうしてメイド服を着させられている。こんな落差があっていいものだろうか。いいや、いいはずがない。神様、もう少し加減してくださいな。

 「そう言って、どうせ八月の末に慌てるんでしょう?」と、妹はいたずらっぽく笑う。

 「そんなことないさ」

 ふっと笑って、「だって、おれだよ?」と、彼は続けた。

 いやあ、むかつく言い方をするものだ。