ふと、健人との輪の外からなにか強いものを感じて見てみると、ソファからはんにゃが睨んでいた。
「ええ……」と声を漏らすわたしの横で、健人が「唯子は、夜ごはんなに食べたい?」と声をかけた。
唯子は微かに表情をやわらげて、イヤホンを外した。
「夜ごはん。なに食べたい?」と、健人が改めて尋ねる。
「梅茶漬け」
「遠慮しなくていいんだよ」と彼は言う。
いや、わたしとしてはある程度遠慮してくれた方が助かるんだけど……。
唯子は少し困ったような顔をする。じゃあ、というような感じで口を開く。
「……梅餃子」
それから一拍置いて、吐息のような控えめな笑いが聞こえたかと思うと、健人は唯子にそっと歩み寄った。ソファの後ろに立つと、優しく、彼は妹の髪の毛を撫でた。鬼のような顔をしていたその妹も、愛らしい顔つきになる。
「いいんだよ、遠慮しなくて。美味しいもの、食べようよ」
唯子は、顔を上げて兄を振り返り、なにかを求めるように手を伸ばした。
健人が、「ん?」と手を出すと、それを大切そうに、両手で握った。
なんだこいつ、かわいいじゃないの――!
「夜、なに食べる?」
少し間を置いて「なんでもいい」と答えた愛らしい静かな声に、健人は「うん、なんでもいいよ」と返す。妹の言いたいことはわかっている声だった。
いや、唯子がなんでもいいって言ってるんだし、兄ちゃんが適当に作ってあげればいいんじゃないの? なにも、こんな妹がすっごい嫌ってる女に作らせないでさ。
「……梅」
「梅? そっか。梅干し使ったものにしようか」
「ん」と頷いた唯子の声は、女のわたしが聞いてもかわいかった。
あーあ。ふざけんなとか、馬鹿じゃねえのとか、そういうことを言っちゃうわたしなんかより、こういう女の子がモテるんだろうなあ。
「ええ……」と声を漏らすわたしの横で、健人が「唯子は、夜ごはんなに食べたい?」と声をかけた。
唯子は微かに表情をやわらげて、イヤホンを外した。
「夜ごはん。なに食べたい?」と、健人が改めて尋ねる。
「梅茶漬け」
「遠慮しなくていいんだよ」と彼は言う。
いや、わたしとしてはある程度遠慮してくれた方が助かるんだけど……。
唯子は少し困ったような顔をする。じゃあ、というような感じで口を開く。
「……梅餃子」
それから一拍置いて、吐息のような控えめな笑いが聞こえたかと思うと、健人は唯子にそっと歩み寄った。ソファの後ろに立つと、優しく、彼は妹の髪の毛を撫でた。鬼のような顔をしていたその妹も、愛らしい顔つきになる。
「いいんだよ、遠慮しなくて。美味しいもの、食べようよ」
唯子は、顔を上げて兄を振り返り、なにかを求めるように手を伸ばした。
健人が、「ん?」と手を出すと、それを大切そうに、両手で握った。
なんだこいつ、かわいいじゃないの――!
「夜、なに食べる?」
少し間を置いて「なんでもいい」と答えた愛らしい静かな声に、健人は「うん、なんでもいいよ」と返す。妹の言いたいことはわかっている声だった。
いや、唯子がなんでもいいって言ってるんだし、兄ちゃんが適当に作ってあげればいいんじゃないの? なにも、こんな妹がすっごい嫌ってる女に作らせないでさ。
「……梅」
「梅? そっか。梅干し使ったものにしようか」
「ん」と頷いた唯子の声は、女のわたしが聞いてもかわいかった。
あーあ。ふざけんなとか、馬鹿じゃねえのとか、そういうことを言っちゃうわたしなんかより、こういう女の子がモテるんだろうなあ。



