5時間だけのメイド服

 気づくと、唯子はダイニングテーブルを拭いていた。なんだ、なかなか気の回る娘じゃないか。やっぱり、健人や唯人君のような兄がいながら狂暴な少女が育つことなどないんだ。

 これで一安心だ――なんて思ったのも束の間、唯子がぎろりと鋭い睨みを飛ばしてきた。……え、本当になんでこんなに嫌われてるの、わたし?

 両手でお皿を持って、「いいにおーい」と緩やかな声を出す唯人君はこんなにかわいらしいのに。

 「唯人、フォーク持ってきて」と言う健人はこんなに穏やかなのに。

 妹だけ、どうしてこうなってしまうんだ……。あの顔はもう、はんにゃもびっくりだよ。舞を踊るにしても、お面なんて要らない。

 唯子の分と一緒にお皿を持って、台所を出た。ダイニングテーブルに置いてやると、そのときにはもう、目が合うこともなかった。もう嫌だこの子、ほんと怖い。鏡のようにぴかぴかな真っ白のテーブルに唯子の顔が映っているけれど、本当に、はんにゃも飛び退くくらいの顔をしている。なんだろう、唯子にとっちゃこれが普通の顔なのかな。常に怒ったような顔のおじさんみたいな。

 高級感漂う黒い椅子に腰かけて、「いただきます」と手を合わせる。間延びした唯人君の声、穏やかな健人の声が続く。

 「唯子」と健人に言われて、彼女がなにか呟いた。「いただきます」と、そう言ったのだと、わたしは信じる。

 思い付きだった割に、パスタは美味しかった。梅干しの甘酸っぱさ、大葉の香り、さっぱりしたそれを包み込む、ごま油のしっかりした風味。ふと見た唯子の表情も、心なしか穏やかに見える。