5時間だけのメイド服

 キッチンに着くと、「さて、ここが調理場さ!」と、健人は両腕を広げた。

 真ん中に大きな台があって、奥に大きな冷蔵庫、冷凍庫。そして真ん中の台を囲むようにL字の作業台がある。確かにこれは、台所というよりも調理場、かもしれない。

 「うっざ」と低い声が聞こえて、ぞっとする。唯子だ、唯子様がいらっしゃるんだ。

 わたしはすぐに、隣に立っている健人の耳元に口を寄せた。「あの、お兄さん。今、聞きました?」と囁く。

 「ん、なんのことかな」と彼は言う。

 ああ、最悪だ。なんて質の悪い。あの声は、この兄貴には聞こえていないんだ。

 ため息をついて見てみると、ぎゃあっと声を上げそうになった。唯子も同じメイド服を着ていた。首の辺りになにか機械的なものが見えるけれど、イヤホンかなにかだろう。

 わたしはもう一度、健人の耳元に口を寄せた。

 「ちょっと、まさか、わたしの服がちょうどよかったのって……」

 「そう。唯子をモデルに、だいたいこんな感じだろうと予想したから」

 「最悪だよ、本当。見てよ、あの唯子の顔。わたしの命、ここで絶えたりしないよね?」

 「大丈夫。唯子は、根はいい子なんだ。ちょっと、人見知りだけど」

 「ええ……」

 なんだこの二人の兄貴は。口裏合わせてるのか。唯子は根はいい子、ちょっと人見知りな子、と、わたしに信じ込ませて、なにかしようって魂胆じゃあないでしょうね。