5時間だけのメイド服

 そんじゃあおれは外で、と、彼は立ち上がる。

 「ああ、この部屋、カメラなんか設置してないから、安心していいよ」

 「は⁉ なんでそんなこと言うの⁉」

 「いや、安心してほしくてさ。相川さん、警戒心強そうだし、大丈夫だよって伝えた方がいいかなって」

 「いや、逆効果! カメラとか一ミリも考えてなかったし! 言われたことでめっちゃ気になるんですけど!」

 「いや、ないってば。大丈夫、大丈夫。安心して。リラーックス」

 すー、はー、と大げさな深呼吸をして見せて、健人は部屋を出て行った。

 ああもう、最悪だ。

 着替え終わっても、最悪だ、という気持ちに変わりはなかった。

 「なんでぴったりなんだよ。まじで気持ち悪い……」

 深く息をついて、「済んだけど」と、扉の外に声をかける。

 がちゃりと扉が開いて、健人が顔を覗かせる。

 「やあやあ、やっぱりぴったりじゃないか! よく似合ってる!」

 「まじで最悪……」

 「コックさんの服にするかも迷ったんだけど、やっぱり女の子にはメイド服だよなって」

 「どういうことだよ。いいんだよ、別に私服のままで」

 「ええ……。つまらないじゃないか。どうだい、楽しくなってきたろう?」

 「楽しくねえよ」

 「こらこらあ。そう男の子みたいな言葉使わないの。楽しくないよお、でしょう?」

 「ふざけんな」

 「冗談はやめて、だよ」

 「失せろ」

 唯子の口調や表情を真似て言った。

 「おお、怖い怖い」と、健人は大げさに肩をすくめる。

 「どこか親近感のある恐怖だねえ、こりゃ」

 どういうことだろう、と言う彼に、心の中で、あなたの妹さんですよ、と返す。