5時間だけのメイド服

 部屋は、思ったよりも普通だった。右側にベッドがあって、左側に机があって、正面にそう大きくないテレビがあって。

 「やあ、相川さん」と、健人は暢気に言う。

 「いいわね、暢気で」

 「失礼しちゃうなあ」と、気楽に笑う。

 「おれはおれなりに忙しかったんだよ。あれこれ考えてたんだから」

 「なにを」

 「相川さんになにを着てもらおうかなあって」

 「着るって、なにを?」

 「制服だよ。私服を汚すわけにはいかないでしょう? 今までの仕事場でもあったでしょう」

 「あったけど……。なに、わざわざ用意してくれたの?……わたし、こう見えて結構、豊満なボディなんだけど。着痩せするタイプなんだけど」

 男子というのは、時に恐ろしいもの。女子という存在に変な夢を抱いて、子供用みたいに小さな服を用意している可能性もある。

 「大丈夫さ! ぴったりなはずだよ」

 「気持ち悪いよ! 全然だいじょばないんだけど」

 「なにが問題かね? 大切な私服は汚れないし、制服のサイズも問題ない」

 「そのサイズに問題ないのが問題なんだよ。気持ち悪い、なんで知ってんの」

 「知ってるわけじゃないけども、大体こんなもんだろうと」

 まあとりあえず着てごらん、と健人が出してきたのは、ふりふりなメイド服だった。

 「誰がメイドじゃ!」

 健人はしゅんとした顔をする。

 「嫌かい?」

 「誰が喜んで着るかい。馬鹿なの? なんでメイド服?」

 「かわいいだろうと思って。相川さん、似合うと思うよ」

 「似合う似合わないの問題じゃないんだよ。わたしの気持ちはなんでこうも置いてけぼり?」

 「置いてけぼりだなんてそんな。どうだい、かわいいだろう?」

 「しかも丈が短いんだって。なにこれ、セクハラ?」

 「そんなに嫌なら……。まあ、唯人にでもあげるよ」

 「は⁉」

 「いや、だから唯子にでも……」

 「ああ、唯子ね」

 唯人って聞こえた……。なんだ、唯子にね。それなら問題ないか――ってちょっと待った。

 「だめだめ!」

 「おや、着てくれるかい?」

 「えっ、いや、あ……」

 そういうわけじゃないけれど、唯子にこんなものを渡したら、たぶん健人兄ちゃん、ズタボロにされる。

 「まあ……あんたが無事でいられるなら……」

 「無事? むしろおれは喜ぶよ。相川さんのメイド服姿を拝めるなんて」

 「気持ち悪いんだよ!」

 わたしは大げさにため息をついた。

 「サイズ、ちょっとでも合わなかったら絶対着ないからね。新しいのとかそういうんじゃなくて着ないから。私服が汚れるとか、そんなヘマしないし、本当に必要だと思ったら自分で用意するから!」

 ははは、と健人は愉快そうに笑う。

 「よしよし。じゃあ一回、着てごらん」