「お疲れ様でーす」

 挨拶を交わして、わたしはお店を出た。すでに空は真っ暗。もわんとした真夏のような空気が重苦しい。背後の窓から通る光が、足元に薄い影を作る。

 わたしは両腕をぐっと上に伸ばして、一気に力を抜いた。だらんと下りた腕がかあっと温まって、体が軽くなる。今日もお仕事、終了です。


 頭の奥に、パッフェルベルのカノンが響く。わかったって。起きるから。何度答えても、カノンは鳴り止まない。起きるってば、何度も言ってるじゃん。

 起きろ起きろと鳴り続けるカノンに嫌気が差して、わたしは瞼をこじ開けて、体を起こし、時計のペン吉のスイッチを切った。水色のころんとした体のペンギンのお腹が、朝の七時を指している。

 おはよう、ペン吉――。