でも、夏の話って、それだけ言われたら気になるっしょ、なんか。ゆり先輩は早読だから今日中に読み終わるだろうし、気になるものは早く知りたいタイプだから、今日だけ。


「おれが興味あるのはゆり先輩だからね」


そぅ言うとあからさまに嫌そうな表情を浮かべた。相変わらず容赦ないな。


「…きみだって毎日、揶揄うの、飽きないじゃない」


責めるような口調でつぶやく。

へらへら笑って言うから冗談に思われるのはわかってるんだけど、でも、おれだって意外と恥ずかしいし緊張してるんだから仕方なくね?

真剣に、とか、まじめに、とか、どうやったらいいかわかんねーし。


「揶揄ってないですって。だけど毎日、ゆり先輩がいるから楽しい」

「……おかしなひと」

「おれからすればゆり先輩のほうがおかしいですよ。もっと自信持てばいーのに」


そうすればおれがゆり先輩を褒めようが口説こうがちょっとは信じてもらえる気がするんだけど。…って、彼女に責任転換するの、本当しょぼいよな。

小さくて赤いくちびるが、躊躇いがちに開く。


「自信なんて、なくてもいいの」

「……」



友達らしき人と一緒にいるところなんて見かけたこともない。

青木ゆりという人物の話をしている人を見かけたこともない。

自分の意見は持っているのに大きな声で主張することもない。


こんなにきれいで、優しい目をするひとなのに、彼女に気づいているひとはおれとアイツ(、、、)以外にきっといない。

おれはただ、運がよかっただけ。

だけど今のままじゃ彼女の運はたぶん良くならない。