中に入っていたのは一冊の単行本だった。
タイトルは『淋れた魔法』。
失った恋から抜け出せないでいた主人公に、おせっかいやきな誰かが届けてくれた一冊の魔法の本の物語。
最後まで何も解決していないようで、主人公の考えかたは、生きかたは、豊かに、色鮮やかに、なっていったと思う。
ファンタジーなのか、恋愛小説なのか、はたまた人生論を語っているのか……わたしの読み方がへたくそなのか、作者が狙っているのか、テーマは絞り切れなかった。
だけど。
「すごい……」
年下の彼が、嘘のはずだった夢を本当にした証の一冊だった。
小説家になりたいと土屋凜が言ったとき、しばらくして、とても不安になってしまった。
「本当に小説家になりたいの…?」
あれは疑いの台詞じゃなかった。
物語を書くって“自分のこと”を、ひたすらに隠すか曝け出すかのどちらかだと思っていたから。
どっちもきみにとってくるしいことなんじゃないかと思ってしまって……けっきょくその心配はきみを傷つけるだけだったね。
「そんなの要らなかったよゆり先輩」って見せつけるように、
あれから3年足らずで、あの頃のかっこ悪いわたしを好いてくれた土屋凜が、颯爽と通り過ぎてった。
わたしの初恋のひとは、ずっと、どこまでも、かっこいいね。
がんばろう。
次こそは、と。
淋しい気持ちは、きみのように乗り越えて。
【淋れた魔法】 fin.



