淋れた魔法



きみと初めて図書室を抜け出して過ごした放課後。大事な思い出にするはずだったのに、それ以来、こわくて、図書室に行けなくなった。


本は読まなくなった。

読めなくなったと言ったほうが正しいかもしれない。


みんなの中心でどんどん笑わなくなっていくきみには気付いていたけど、どうしたらいいのかわからないまま、大学生になった。



毎日の放課後の図書室での時間。

季節外れの夏をなぞったこと。

それを思い出しては、後悔してる。もうずっとそうしてる。大事な思い出は、こんなにも重たい底なしの沼だ。


そんなある日、水島先生が大学までわたしに会いに来た。

びっくりして上手く話せずにいるわたしをバカにしたように笑う。大人って余裕があっていいよね。


きっと先生は、あの頃、わたしと彼がまた喋れるようになるための正解を知っていたと思う。

教えてくれなかったのは、いじわるなのか、教えなのか。


20歳。成人を迎えた今でも、わからない。



「青木にこれやるよ。成人祝い。それちゃんと見て、今度こそ先輩らしく自分だけの正解を見つけてみろ」


どうやらこの大学の先生に知り合いがいるらしく、その人との予定のついでだったらしい。ちょっとだけ世間話をしたらすぐに行ってしまった。

押し付けられた包装紙に包まるそれを、怪しみながら広げる。