淋れた魔法



このひと、おれの気持ち、ぜんぜんわかってない。まだ揶揄ってると思ってる?好きなひとにきもちわるいって言われた。笑えてくる。


そんなこと言うひとだと思わなかった。

迷惑がっていても、傷つけるくらいならずるい人間になってくれるひとだと思ってた。


「傷つく? 嘘つき」

「これは嘘じゃ……」

「だってきみが好きなのは、勝手に自分の理想通りに創り上げてるわたしだもの」


──── やめて、先輩。


「本当はわたしが何を言ったって、わたしがきみの気持ちに応えられなくたって、きみの心は傷ついたりしない」



それは、決めつけだ。
とは、言えなかった。


本当にバレたくなかった何かは、たった一瞬で考えたバレてもいい嘘によって、壊されてしまった。

おれの目に映る、きれいな存在。
それがゆり先輩。


ゆり先輩のことなんて深く知らない。教えてもらったことがないから仕方ないと思う。だけど、聴いたことだって、ない。


それはきれいなものに知らない色がついてくことを懼れていたからだ。

隠して、へらりと、繕って。



おれのことなんて見てなかったくせに


なんで、知ってんだよ。



「自分を甘やかすための道具に、わたしを使うのは……今日で終わりにして」



恥ずかしげもなく、確信を持って、彼女は強くそう発した。

そしてさっき履いた靴をまた脱ぐついでに蹴り飛ばして、靴下を履いたまま海へ駆けていく。