淋れた魔法



1日も持たなかった数時間の嘘。

だけど、ゆり先輩と、はじめて図書室を抜け出せた。


ずっとこういう時間を過ごしてみたかったおれは、身勝手に、満足してる。



「…きみっていつも中途半端だよね」



それは初めて聴く、棘の含まれた声だった。

こっちを見上げた彼女は大きな瞳に涙を浮かべている。こぼさないようにしているのか、睫毛の先が震えていた。

その理由はどうしたってわからなくて、つい振り回されているような気持ちになってしまう。


勝手に、ただ好きなだけ。


ゆり先輩がアイツを好きなことだって知ってる。

だからおれを見てくれないことだって知ってる。


だけど、だから、なんで。


「わたしのことを好きな素振りも、先生に突っかかる素振りも、せっかく自分を慕ってくれる友達や女の子たちへの態度も、今も……ぜんぶ中途半端だなってずっと思ってた」


はあ?と思った。

中途半端にしていつも逃げ回ってんのはどっちだよって思った。


おれのこと好きでもなんでもないなら、なんで泣くの?

アイツのこと好きなくせに、なんで隠すような態度とんの?

暇つぶしに本、とか、回りくどい。

おれのついたこの嘘を、ゆり先輩が責める権利ってあんの?


自分だっていつも、アイツのために、自分を取り繕ってる。



「わたしに苛立ってるならそう言えば?」

「…っ、なんなんですか、その態度…」

「嘘つかれたから怒ってるの。そんなのでわたしの気を引いてきみはうれしいわけ?」

「うれしいですよ。先輩がおれのことを見てくれたり、おれのために時間を割いてくれたり、そういうの、うれしいです。嘘吐いた甲斐あったなって思います。先輩だって、そういう気持ち、理解できるんじゃないですか」

「……ずっと思ってた。きみ、きもちわるい。今の嘘で確信した」

「いや、さすがに、それは傷つくんだけど」