淋れた魔法



「なるわけ、ないじゃないですか」


思った以上に低い声が出た。


「…え…?」

「無理って思われるのも癪なのでバラしますけど、小説家なんてそもそもなる気ないですよ」


ゆり先輩の小さなくちが、ぽかんと開く。

塞いでやろっかな、と、できるはずもないくせに投げやりの思考。


「先輩におれのことも見てほしくて……嘘言っただけです。そうしたら、本当に、はじめてちゃんと見てくれた」

「……」

「夢なんてべつにないです」


なんでそんな、泣きそうな顔するんだろう。

嘘ついたから?

でも、どうせゆり先輩は、おれの言葉で一喜一憂なんてしない。


彼女を傷つけられるのはアイツだけ。

なにより、おれなんかが傷つけて良いひとじゃない。


「真剣に付き合ってもらったのにスミマセンデシタ」


謝りたい気持ちは本当だったけど、どうしてか素直に謝ることができない。

ゆり先輩はおれから視線を外した。夢のないおれには、小説家になりたいってのが嘘だったおれには、なんの興味もないらしい。


どう思われてるんだろう。

バラさなきゃよかったかなって思ったけど、だけど、バラしたくなったんだから仕方ない。