淋れた魔法



おれの嘘に、真剣になってくれる。
そんな先輩にいちいちアイツの話題を投げたくない。


「あとは、登場人物だね。プロフィール考えたり人物像考えたりすればブレないで最後まで書けそうじゃない?」

「あ、はい」

「それで、夏の話でしょ。夏ならなんだろう…海、山、星座にお花…モチーフにできるものはけっこうあるよね」


それは総てゆり先輩に似合うもの。

嘘でも嘘じゃなくても、どっちにしろおれが描けるはずもない。


「作家さんによっては物語の結末から考える人もいるんだって。そこに向かって肉づけしていくと話も膨らみやすいかも。逆に結末を決めずに書くのもおもしろいのかなあ」


親身になってくれる。

こんなに話してくれたことなかったから、嘘吐いてよかった。



「……土屋凜、ほんとうに、物語を書きたいの?」



今まで一度だっておれのことを見てはくれなかったくせに。

一緒にいても、簡単にすり抜けてアイツのもとへ行く。

おれのところに来てくれたのなんて、夢があると嘘を吐いた今日が初めてだ。


それなのにまるでおれを知ったような口ぶり。

身勝手なのはわかっているけど、苛立ってくる。


「嘘だと思うんですか」

「そういうわけじゃない、けど……物語を書くって、すごいことだから……」

「は…おれにはすごいことはできないって意味ですか」

「ちがう、そうじゃなくて…その……」


言いにくそうに口籠もる。

その態度が、おれはアイツみたいになれない。そう言っているような気がした。