淋れた魔法



棒アイスはふたつともハズレだった。

期待なんてしてなかったからふたりとも特に残念がることなく、ちょうどよく道端にあったごみ箱に捨てた。



海がきたねーよ…と、海を眺めるきれいな横顔を見て少し残念な気持ちになった。

「つめたいかなあ」なんてつぶやきながらローファーを脱ぎだしたから、思わず前に割って入る。ゆり先輩はきょとんとした目でこっちを見た。


「や、海、汚いから入るのはよくないかと…」


意外だった。テトラポットも駆け下りてくし、髪をがしっと掴んでスカートのポケットから出てきたシュシュでひとまとめに束ねてくし、靴下を砂浜に捨ててまた走っていこうとする。


くちびるを一文字に結んでひとりで校舎を歩く姿とも、図書室で背筋を伸ばして本を読んでいる姿とも一致しない。なんつーか、わんぱくって感じ。

クラスメイトのやつらと何ら変わらないような、そんなゆり先輩は初めて見た。


「でもせっかく海に来たんだよ。足だけなら大丈夫だって」

「……」


だけど、おれにとって、ゆり先輩は濁りや汚れからは程遠い場所にいるひとなんだ。

行ったことねーけど、教会とか、それこそ透けてしまうほど透明度の高い海とか、満点の星空の下とか、淡い色の花畑とか…そういうところが似合うひと。こんな海に入れるわけにいかない。


「だめです。なんか、転んで全身に浴びそうだし」


テキトウに理由をつけるとゆり先輩は「それでもいいのになあ」とつまらなそうにつぶやく。


「でもわかった。見てるだけでも癒されるもんね」


たぶんだけど、彼女の言葉もちょっとテキトウ。おれに仕方なく話を合わせてくれた感じ。年上ぶった感じ。


ゆり先輩の手が、おもむろに、おれの腕を掴んだ。

びっくりして腕を引っ込めようとすれば「靴履くから貸して」と足についた砂を払いながら言う。