淋れた魔法



海好きなのかな。好きっぽいな。ゆり先輩と海…想像したら、なんか死にそうになった。


電車に揺られて、一番近い海のある駅へ。

他愛ない、だけど途切れることなく会話をしていたと思う。


正面じゃなく隣に座ったのは初めてだったけど、花のようなにおいがして、良いもんだな…と、会話にあまり集中できなかった。もったいね。



下車した駅前のコンビニで棒アイスを買った。

ゆり先輩は何味を食べるんだろう、と思っていたらソーダ味を買っていた。意外だ。バニラとかイチゴとかを選ぶかと思ってた。なんて勝手に予想を外しながらチョコチップが入ったバニラにかじりつく。


「おいしいね」

「そーですね」


さらさらの髪につかないように耳にかけるしぐさが、きれい。

赤いくちびるは小さく、何度もアイスを含む。いーなー、そのアイス。


「土屋凜は甘党だよね」

「そうですか?」

「うん。学校でもミルクティーとかココアとか飲んでるし、お昼ごはんは菓子パン」

「え、な、なんで、」

「きみってとっても目立つもの」


だからって、おれが、図書室以外の場所でこの瞳に映っていたなんて。

冷たくあしらうくせに、ずるいひとだな。

ずるいほうがおれにとっては今みたいにうれしいことばかりで都合が良い。



「べつにそんな、目立たないですよ」


わざと謙遜してみれば、見透かしたように笑われた。


「どの口が言うってやつだね。きみの周りにはいつも人が集まってるし、きみがいないところでも話題にされてる。土屋凜が次に何をするか、何を言うか、誰といるか……みんなそれに夢中だよ」

「ゆり先輩も夢中になってくれてますか?」


なんてね。


「わたしは……きみが毎日図書室に来ることが、ふしぎで仕方ない」


困ったように眉を下げる。

揺さぶろうとしても、ひと振りもしてはくれない。