「あの……その……」

「うん?」

「じ、じつは、わたし、ちゃんとしたデート、したことないの……」



もごもごと口を動かしながら、泣きたくなってきた。

なんて哀れなんだろう。さすがの弓木くんも呆れて引くんじゃ────と覚悟をしたのに。



「ふは、なんだ、そんなこと?」

「っ、だから理想のデートとかわかんないの!」

「別に俺、“理想のデート” とか求めてないし」

「えっ? だ、だって、考えてって……」

「いや。普通に、中瀬の行きたいとこならどこでもいいんじゃない?」



弓木くんが、わたしを閉じこめていた腕を壁から離す。

代わりに、わたしの手のひらをそっと握った。



「ほら、行くよ」

「……! な、何しに……っ?」

「なに、って。放課後デートに決まってんじゃん」