「じゃあ、中瀬が弓木のこと好きなだけってことか。こんにゃろー、モテやがって」



山本くんがけらけら笑う。


それはまったく的はずれな指摘なはずなのに、かぁっと頬が熱くなった。

うあ、これじゃあ余計に教室に入りづらい。



「それ、違うから」


と、千隼くんの声。


「んぁ? どーいう意味?」

「このかは俺のこと、好きとかじゃない。俺の方が、一方的に好きなんだよ」


「んんっ?? ……は、いや、それって……お前の片思いってこと?」

「そう」


「は?! 弓木が片思いって、変だろ、信じらんねえ。キャラ違ぇじゃん」

「別に、元から俺はこうだから」

「マジかよ。全女子が憧れるナンバーワン男が片思いだと??」



山本くんが絶句している。



────数週間前、体育倉庫の前で “弓木ファンクラブ” の先輩たちに暴力をふるわれそうになって。


もうあんな目には遭わないように千隼くんが提案してくれたことだった。



『俺が一方的に好きなだけって言いふらせば多少は落ちつくかもな。このかが俺にアプローチしてるんじゃなくて、俺の方からだってうわさになれば、諦めもつくだろーし、このかも変に疑われずに済むし。つうか、それが事実だし』