「そっか。でも寂しい……」
「長期連休は一緒に帰省しようって話してるから、年に三回くらい帰ってくるよ」
「あたしも遊びに行く! 北海道行ってみたかったし!」
「きてきて! 待ってる!」
名古屋を出るまであと二ヶ月以上もあるのに、彩乃が『今日は送別会だ』とか『結婚祝いだ』とか思いつく限りの理由を次々と口にしながら、次々とお店を変えてお酒を飲み続けた。
まあ、送別会じゃなくてもお祝いじゃなくても、私たちはいつもそうなのだけれど。
「なんかあったら、絶対にちゃんと連絡してね」
始発が出る頃、カラオケから出ようとした私を後ろからぎゅうっと抱き締めた彩乃は、少し震える声でそう言った。
高校時代からずっと一緒にいた彩乃。私は一生名古屋にいると思っていたし、彩乃もそのつもりだといつか言っていた。
離れる日がくるなんて考えたこともなかったし、正直に言えばめちゃくちゃ寂しい。
名古屋を離れることで、もうひとつ不安を挙げるとするならば。
彩乃と離れること。郁也には言えなかったけれど、それが最大の不安。
でも、大丈夫。ちょっとクサイから、口には出せないけれど、例え離れていても彩乃は一番の親友。
「うん。約束する。彩乃もね」
じわ、と視界が霞んだ。それをぐっと堪えて、口に出せない想いを両手に込めて、胸元にある彩乃の手をぎゅうっと握った。