ああ、どんどん期待に胸が膨らんでいく。
頬に両手をあててにやにやしている私を見て、郁也は声を出して笑った。
「お前、北海道の広さ知ってる? 知床なんて、札幌から何時間かかると思ってんだよ」
「でも行きたい」
「わかったよ。どこでも連れて行ってやるよ」
私たちは旅行をしたことがなかった。郁也はあまりアウトドアではないし、私も私で、旅行をしたいとは思うけれど、どこに行きたいとか具体的な計画を立てるのが得意じゃない。
彩乃たちとテーマパークに行くことはあるけれど、郁也は絶叫マシンが苦手だから、一緒に行ってくれなかった。
今回は旅行じゃないけれど、たくさん観光ができる。北海道は広いから、きっとたくさん楽しいことが待っている。
だって、隣には郁也がいるのだから。
「しばらくは転勤多いかもしんねぇけどさ。ごめんな」
「え? 全然大丈夫だよ。一緒にいろんなところ行けるんだもん。楽しみ」
「お前、ポジティブだな」
どこへ転勤になったとしても、それだけ郁也との思い出が増えていく。
郁也と一緒にいられるのなら、どこでも大丈夫。
例え全く知らない土地だとしても、ほんの少し不安だけれど、きっと私は笑っていられると思う。


