「当たり前じゃん。フミと一緒にいられるなら、どこでもいいよ」
まじか、と言った郁也は、目尻を下げてくしゃっと笑った。
その笑顔はどこかホッとしたようにも見えて、もしかして、断られるかもしれないって不安だったのかな、と思った。
断るわけがないのに。私の中に、郁也と離れるなんて選択肢が浮かぶことはないのに。もう前みたいに反論したりしない。郁也が決めたことについていく。
就職してすれ違い始めることが多いと聞くけれど、順調に付き合えている。なんの不安も不満もなかった。
「どこになりそうとか、まだ全くわからないの?」
「いや、たぶん札幌。新規事業の立ち上げあるみたいで、そこに配属になるんじゃないかな」
いや、ひとつだけ、ほんの少しだけ、全く知らない土地だったらどうしようという不安があったけれど。
札幌と聞いて安心した私は、不安の代わりに嬉しさがこみ上げた。北海道に行ってみたいとずっと思っていたし、憧れの地のひとつでもある。
「北海道かあ。ご飯おいしそうだよね」
「遠すぎる!とか怒るかと思った」
「怒るわけないじゃん。雪まつり行ってみたい。あと、小樽運河でしょ、函館の朝市でしょ、世界遺産の知床でしょ。行きたいとこいっぱいありすぎて楽しみ」


