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「ユズ、話がある」
郁也が言ったのは、付き合ってから二年が経とうとしていた頃だった。
マットレスを背に座ってギターを弾いていた手を突然手を止めて、数秒ほど停止したかと思えば、私に身体を向けた。
私の目を真っ直ぐに見つめる。その目は、出会った時のそれとよく似ていた。
「なに? どうしたの?」
「実はうちの会社、けっこう転勤多くて」
直接聞いたことはなかったけれど、なんとなく気付いていた。全国に支社がある大手企業だし、いつかは転勤するのかな、と漠然と思ったことはある。
「特に若手のうちはいろんな支社に飛ばされそうで」
「うん?」
「俺もたぶん、次の春には異動になりそう」
次の春って、あと三、四ヶ月しかない。
なりそう、ということは、まだ正式に決まっていないってことだよね。いつ決まるのだろう。転勤ってそんなに急に決まるものなのか。
いや、普通はもっと遅いのかな。私の仕事は転勤がないから、基準がわからない。
「その……もしそうなったら、ついてきてくれる?」
いつもなんでもかんでも決定事項みたいに押し付けてくるくせに、こういうことは聞いてくるのか。
いつもみたいに『ついてこいよ』とか『一緒に行くぞ』とか言えばいいのに。


