君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



***


「ユズ、話がある」


郁也が言ったのは、付き合ってから二年が経とうとしていた頃だった。


マットレスを背に座ってギターを弾いていた手を突然手を止めて、数秒ほど停止したかと思えば、私に身体を向けた。


私の目を真っ直ぐに見つめる。その目は、出会った時のそれとよく似ていた。


「なに? どうしたの?」


「実はうちの会社、けっこう転勤多くて」


直接聞いたことはなかったけれど、なんとなく気付いていた。全国に支社がある大手企業だし、いつかは転勤するのかな、と漠然と思ったことはある。


「特に若手のうちはいろんな支社に飛ばされそうで」


「うん?」


「俺もたぶん、次の春には異動になりそう」


次の春って、あと三、四ヶ月しかない。


なりそう、ということは、まだ正式に決まっていないってことだよね。いつ決まるのだろう。転勤ってそんなに急に決まるものなのか。


いや、普通はもっと遅いのかな。私の仕事は転勤がないから、基準がわからない。


「その……もしそうなったら、ついてきてくれる?」


いつもなんでもかんでも決定事項みたいに押し付けてくるくせに、こういうことは聞いてくるのか。


いつもみたいに『ついてこいよ』とか『一緒に行くぞ』とか言えばいいのに。