君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



そうか、音楽の話をしたら上機嫌で起きるのか。今度からはそうしよう。


ベッドからおりた郁也は、出かける準備をすることなく、さっそくギターを持って軽く音を鳴らす。


ヤバイな。これは、出かけずに家で練習するパターンだ。


しまった、と思った。音楽の話をすると、郁也はデートの約束なんてそっちのけでギターを弾き始めるのだ。


こういうことは度々あった。出かけるって言ったじゃん!と文句を言っても、別にいいじゃん、歌ってよ、と言われて。


最初はふてくされていても、郁也のギターの音を聴いていると、いつの間にか歌い始めてしまって。結局、郁也にまんまと丸め込まれた私は、数時間後には笑っていて。


そうか。上機嫌で起きてくれるのはいいけれど、デートがなくなってしまうというデメリットもあるのか。


まあ、一緒にいられるなら、別にいいけれど。


「せっかく同棲始めたんだし、それっぽい曲歌おうか。『君がドアを閉めた後』とか」


「え?」


私は半同棲くらいかと思っていたけれど、郁也の中ではもう同棲していることになっているのか。


まあ確かに、実家にいるよりこの家にいる方が多くなっているし、当然のようにご飯を作ってお風呂を沸かして郁也の帰りを待っているわけで。