君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



手の平から伝わる鼓動は、部屋中に響いてしまいそうだった。


「……私、昨日も言ったけど人前で歌うほどうまくないし、そういうの苦手だから」


歌うことは好きだし、友達とカラオケに行けば「ユズは歌がうまい」と褒めてもらえることもあるけれど、人前で披露するほどうまくはない。


もっとやんわり断った方がいいかと思ったけれど、これくらいハッキリ断らなければいけないということは、昨日と今日でよくわかった。


胸元に当てていた手を下げて、少しの罪悪感を抱きながら「ごめんなさい」と小さく頭を下げて、背中に彼の視線を感じながら、振り返ることなく部屋をあとにした。