君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



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今年は結局雪が降らなかったから、『ヒロイン』は絶対に雪をバックに撮影したいと言って引かない郁也のせいでなかなか撮影ができず、あっという間に春を迎えた。郁也が「来年もある」と言ったから、別にいいけれど。


無事に大学を卒業した私たちは、さっそく仕事が始まった。


郁也の仕事は予想を遥かに超えて忙しそうだった。私は月末の繁忙期以外は定時で帰れることがほとんどだけれど、郁也は毎日遅くまで残業をしていて、平日に会えることはほとんどない。


付き合い始めてすぐに合鍵をもらっていたけれど、それを自分の意志で使うことはあまりなかった。いくら付き合っているとはいえ、人のプライバシーを侵害するのはどうなのか、と考えてしまって。


と、躊躇してはいたけれど、あまりにも会えない日々に耐えられなくなった私はためらうことなく合鍵を使うようになり、出会ってから三度目の夏を迎える頃には半同棲状態になっていた。


「フミ、まだ寝てるの?」


日曜日の午後。シャッとカーテンを開けると、窓から差し込む日差しが容赦なく郁也を照らした。


ん、と小さく声を上げて眉をしかめた郁也は、起きるかと思いきや、寝返りを打って腕を額のあたりにかざした。