君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



腕枕に頭を預けてうとうとしていると、後ろから『繋いだ手から』のイントロが流れ始めた。これはMVじゃなく、郁也のギターの音。


「お前、歌うまくなったんじゃない?」


背中を向けている私にも見えるように、スマホを持ったまま私の身体に腕を回した。


歌がうまくなったかも、とは自分でも思う。


練習日以外のカラオケ通いは今でも続けていて、その甲斐あってか、少しずつ上達しているように思う。ギターを持った郁也があまり怒らなくなったのは、それが一番大きい。


最初は鬼コーチこと郁也の機嫌を損ねないように必死だったけれど、今は純粋に歌うのが楽しい。カラオケに行かなくても最近はずっと歌を口ずさんでいて、歌わずにはいられない、そんな感覚だった。


「次はなに歌いたい?」


「失恋ソングばっかり歌ってるから、次は幸せな曲がいい。シングルじゃなくてもいいなら、『光の街』とか」


「あれいいよな。俺も好き」


動画投稿なんてできない、とあれだけ言っていた私も、再生数が伸びると嬉しかった。


そして何より、歌が上達すればするほど、気持ちよく歌えば歌うほど、郁也は喜んでくれるから。


「今度、雪降ったら外で『ヒロイン』撮ろうよ。初の野外撮影」


暖房ですっかり暖まった部屋と、背中に感じる郁也の体温が、再び私を夢の中へと誘う。