「お前、なんであんなに怒ってたんだよ。サナのこと?」
マットレスを背に床に座った郁也は、隣を左手でポンポンと軽く叩いて“おいで”の合図をした。
いつもなら素直に隣に座るけれど、今日はなんだか近くに座りたくなくて、少し離れて体育座りをした。
……名前で呼んでるんだ。
もうすっかり落ち着いたと思っていたのに、郁也の口から彼女の名前が出た途端、また胸がザワザワと動き始めた。
戻ってきたはずの理性は、また隅っこで小さくなっていく。
「……なんなの、あの子。『フミ先輩、今日きてるかなあ?』とか言われたんだけど。そんなの知らないっつーのっ」
なにを言ってるんだろう。くだらない嫉妬をして、感情のままに言葉を吐き出して、まるで子供みたいだ。
一旦冷静になるためにあの場から逃げ出したのに、ちっともなれていない。結局かっこ悪いじゃん、私。
「なんなの? なんで名前で呼び合ってるの? もしかしてあの子となんかあったの? ていうか、自分のご飯くらい自分で買いなよバカ!」
ご飯を買ってきてもらうくらい、別にいいじゃないか。名前で呼び合っているくらい、別にいいじゃないか。
私だって名前で呼び合っている男友達くらいいるし、郁也は彩乃のことも名前で呼んでいるし。


