君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



歌さえうまければいいなら、彩乃でも、他のサークルメンバーの女の子でもいいじゃないか。


「バンド組んでる……の?」


なんとなく、敬語を使うのも、目をそらしているのも、負けている気がして。


おそるおそる彼に目を向けてタメ口を使ってみたけれど、彼はなにも気にすることなく、ギターのチューニングを始めた。


「そりゃあ、軽音サークル入ってるくらいだからな」


確かに。彩乃は『楽器を触るよりも飲み会をしたりカラオケに行ったりする方が多い』と言っていたけれど、ちゃんと音楽が好きで活動している人もいるんだ。


「あ、でも、組んでた先輩たちが卒業しちゃったから、今は俺ひとりだけど」


それ、もうバンドじゃないじゃん。


言おうかと思ったけれど、初めて彼とちゃんと会話が成立した気がして、あえて突っ込まなかった。


「でもやっぱりギター好きだから、まだ弾いてたいんだよ」


チューニングを終えて顔を上げた彼は、目尻を下げてくしゃっと笑った。昨日はトータルで七時間も一緒にいたというのに、彼の笑顔を見たのは初めてだった。


目つき悪いくせに、笑うと可愛いじゃん。それに、本当に音楽が好きなんだ。


ドクンと心臓が大きく跳ねた。二メートルほど離れている彼に振動が伝わるわけがないのに、反射的に胸元をおさえるように手を当ててしまう。