君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



その小さな小さな理性は、郁也の話もちゃんと聞かなきゃ、と講義室を飛び出した私にささやいていて。


けれど私はバタンと閉めたドアをもう一度開けることはせずに、理性を意地でかき消して逃げ出したのだ。


もしかしたら、郁也にもなにか断れない事情があったのかもしれない。


でも今は、思いきり愚痴を言って、同意して、欲を言えば一緒に怒ってほしかった。


あんな状態で戻ったところで歌えないし、郁也の言い方や言い分によってはきっと余計に責めてしまう。


いつもなら気にならないような郁也の言動も、今の私には癇に障ってなにかひどいことを言ってしまいそうだから、沸騰した頭をアルコールで冷ましたかった。


それから延々と郁也と斉藤さんの愚痴を言い続ける私を、彩乃がなだめ続ける。


いつもの倍近いペースで飲み続けていたから、飲み放題のラストオーダーの時間がくる頃には、冷めた怒りの代わりに罪悪感が押し寄せていた。


「ああーもう……こんなことで怒る自分が、一番嫌だ」


空になったジョッキを持ったままテーブルにうなだれると、彩乃は私の後頭部にそっと手を置いて、「それだけ好きってことじゃない?」と言った。


どうしてあんなことであんなに怒ってしまったのか。そうか、これも“好きだから”の一言で解決するのか。