それを右手で持ち上げて、そのまま太ももの上に置いた。
「う、うん」
「ギター弾くから、歌って。『花束』わかる?」
歌って、って。
やっぱり本気だったんだ。昨日の彼の真剣なまなざしで本気だとはわかっていたけれど、まさか翌日に会うなんて、わざわざ私のことを探しにくるなんて夢にも思っていなかったし、返事を考えていたわけもなく。
「わかるけど……いや、ちょっと待って。なんで私?……ですか?」
いや、私の記憶が正しければ、あの場でちゃんと断ったような。『イエス』か『ノー』を求められていると思っていたのに、彼の中では『イエス』しか求めていなかったのだろうか。
昨日は私もお酒が入っていたからタメ口を使ってしまったけれど、何年生なんだろう。彩乃に聞いておけばよかった。
彼はなんの迷いもなく私に対してタメ口を使っているし、同学年か四年生だろうか。それとも、誰にでもこういう口調なんだろうか。
後者じゃないかと思ってしまうほど彼はどこか威圧的で、奥二重の大きな目に捉えられて少し怯んだ私は、室内を見渡すフリをして、つい彼から目をそらしてしまった。
「なんでって、歌うまいじゃん」
あまり答えになっていない。私の質問が悪かったのだろうか。


