君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



だから、いつものようにそのまま彩乃と別の席に座ればいいのに、混雑を避けてきたおかげで席は選び放題なのに、なぜか私は金縛りに遭ったみたいに動けない。


いや、違う。身体が動かないなんて言い訳で、私はその先を見たいだけ。自分のことを狙っている女の子に対して、郁也がどういう対応をするのかが気になるんだ。


B定食が乗っているお盆を手に戻ってきた斉藤さんも私に気付いて、そのまま三秒ほど停止した。


ぺこりと頭を下げた私に返してくれることはなく、郁也に顔を向けてにっこりと微笑んだ。


「これ、奢りです。デートしてくれますか?」


おいおいおい。目の前に彼女がいるのに、よくそんなこと言えるな。


……いや、なにを自惚れているんだろう。私たちは人前で一緒にいることなんてないに等しいのだから、斉藤さんが、私が彼女だということを知らない可能性だってじゅうぶんにある。


斉藤さんからしてみれば、知らない女と目が合って頭を下げられたわけで。


私が頭を下げたことに気付かなかったのかもしれないし、自分にそうしていると思わなかったのかもしれないし、単に知らない相手だから無視したのかもしれないし。


あらゆる可能性があるのに、なかなか就職先が決まらないストレスで、自分でも気付かないうちに卑屈になっているのか。