君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



郁也はいつも誰かに囲まれている。そんな郁也を羨ましくも思うし、憧れでもあるし、誇りでもある。


本人は人見知りだと言っていたけれど、なんとなく人を惹きつけるような雰囲気がある。私はまさになんとなく惹きつけられてしまった内のひとりだから、よくわかる。


郁也からプリペイドカードを受け取った斉藤さんは、ルンルンとスキップをしながら友達を連れて券売機へと向かった。


いや、実際には学食でスキップなんてしているわけがないのだけれど、私にはそう見えた。なんなら、彼女の周りには小花が舞っているようにも見えた。


私はいつから幻覚が見えるようになってしまったのか。


くるりと振り返って友達の方に体を向けた郁也は、その奥にいる私に気付いた。目が合うと、なぜか体がピクリと強ばった。


「ユズ」


大きな手をひらひらと振る郁也に、小さく手を振り返した。


郁也とは、練習日以外に大学内で話すことはあまりない。


たまに見かけても郁也は友達といるし、私も私で彩乃や他の子といるから、今みたいに手を振り合って終わり。夜になれば会えるから、わざわざ話しかけることもないかなと思っていた。