君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



真ん中で積極的に郁也に話しかけている、最近よく郁也の近くにいる女の子は、彩乃いわく『斉藤サナ』さん。


郁也は隣に立っている斉藤さんを椅子に座ったまま見上げていて、私に背中を向けた状態だから、そろりそろりと少しずつ近付いている私の存在には気付いていない。


「フミ先輩、今日はなに食べますか?」


「奢り?」


「違いますよ! でも、デートしてくれるなら奢ります」


「デートはしないけど、買ってきて。B定食」


言いながら、財布からプリペイドカードを出して斉藤さんに渡した。


いやいやいや、自分で動けよ。


『フミ先輩』とか呼ばれちゃってるじゃん。『デートしてくれるなら』とか言われちゃってるじゃん。絶対郁也に気あるじゃん。いや、『デート』なんて単語が出なくても丸わかりなくらい、めちゃめちゃ狙われてるじゃん。


「ユズ、落ち着いて。深呼吸、深呼吸」


彩乃が、いつの間にか拳を握り締めていた私の肩に手を乗せる。


「フミくん、前にも増してモテてるから……。でもちゃんと断ったんだし、心配することないよ」


わかってる。郁也はちゃんとデートを断ったし、浮気なんてする人じゃないと思うし、彼女は私なんだから、なにも心配することはない。