中学生の頃からずっと、帰っても『おかえり』って言ってくれる人がいなくて、温かいご飯がなくて、誰もいない空間でひとり過ごしていたの?
「それより、次はなに歌う?」
「え?」
身体もこちらに向けて、いつの間にか俯いていた私の顔を覗き込む。
「いや……なんていうか、母親が出ていったのも、父親の仕事が忙しいのも、今はもうしょうがないって割り切れてるから。それより今はユズと動画撮るのが一番楽しいから、俺の昔話よりも動画の話がしたい」
言いながら、編集していた画面をちらりと見た。ほんとに楽しいんだよ、と付け足して、編集途中の動画を再生した。
『思い出せなくなるその日まで』のイントロが、静かに流れていく。
「まだ春ソングはちょっと早いけど、フライングして『はなびら』の練習でも始める?」
胸がドキリと小さく音を立てた。
それはいつもの、郁也といる時に度々感じるそれとは違い、胸の奥に閉まっていたパンドラの箱が開いた音。
『はなびら』はメジャーデビュー曲だし、私がback numberを好きになったキッカケの曲だから、いつか歌いたいと思ってはいたけれど。
「『はなびら』はちょっと」
「なんで?」


