君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



郁也のそんな話を聞いたのは初めてだった。というより、お互いのプライベートのことはあまり知らなかった。


一緒にいても主な話題は音楽の話か大学の話ばかりだし、なんでもない話をして笑っている時間が好きだから気にしたことはなかったけれど。


「そう、だったんだ」


声は少しかすれていた。


当たり前に両親がいて、兄弟がいて、寂しさを知らずに育ってきた私にとって、あまり現実的に感じない話で。


郁也が淡々と話すから、余計に言葉に詰まってしまう。いくつかの陳腐な言葉は浮かんだけれど、どれを言ったところで違う気がして。


「……いや、まじで。気にしなくていいから。今さら気にしてないし」


まだ動画投稿が完了していないのに、郁也はパソコンの画面から隣で黙りこくっている私へと目線をずらした。


郁也は困ったように笑っていて。


気にしていないのは本当だろうけど、それでも言葉が出てこない。そんな私の頭を、ポンポンと軽く二回撫でた。


「あー……まあでも、憧れるよ。帰ったら『おかえり』って言ってくれる人がいて、あったかい飯あって。休みの日はキャッチボールしたり遊園地行ったり? そういうベタなの」


そんなの、私にとっては当たり前のことなのに。