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『思い出せなくなるその日まで』の撮影を終え、郁也は私の隣でサクサクと編集作業を進めていた。
撮影だけは毎回スタジオを借りてやっているけれど、毎回同じ場所ではなくて、曲の雰囲気に合ったスタジオを郁也が探してくれていた。
それは名古屋市内だったり、郁也の地元である豊橋まで行ったり。もともと公共交通機関があまり好きじゃないらしい郁也は、私を助手席に乗せて車で向かうことも度々あった。
初めて郁也の眼鏡姿を見たけれど、別に似合わなくなかったし、むしろ普通に似合っていたし、なんならいつもと雰囲気が違って私の心臓はひどく騒がしかったし、笑い飛ばしてやることはできなかった。
「一人暮らし、寂しくないの?」
今日も私の目は、意志に反して郁也の横顔を映していて。
黙ったままぼうっとしているせいだと思った私は、時々こうして郁也に話しかけるようになった。
黙々と編集作業をしている時でも、話しかければ普通に答えてくれることがわかったから。
「別に」
まあ、この上なく空返事ではあるのだけど。
雑音があると集中できないと言ってテレビはつけてくれないし、郁也の部屋には音楽雑誌しかないし、back numberの記事は全て読みつくしてしまったし。


