私の“そういう雰囲気”は単なる勘違いなのか、どんなに物理的な距離が近くなっても、郁也に“そういうこと”をされたことは一度もない。
だからもう最近では緊張するだけ無駄だと学んで、同じ部屋にいても至って平常心だ。正確には、必死に平常心を保っているフリをしている、と言った方が正しい。
「ええー、じゃあ友達?」
友達……なのかな。
人と人との関係性を言葉で表そうとした時に、家族か恋人か友達という選択肢しかないのなら、友達ということになるのだろうけど。
友達って、彩乃みたいに、こうして普通に話したり遊んだりすることを定義とするならば、私と郁也はそうじゃない。
そうか。人と人との関わり合いには、名前が必要なのかもしれない。だとしたら、私たちの関係はいったいなんなのだろう。
いや、今はもう普通に話したり遊んだりするようになったし、友達なのだろうか。
でも、なんだかしっくりこない。変なの。
「私もよくわかんない」
「なにそれ」
……あれ? ちょっと待って。
男の人の部屋に行くのがどういうことかわかっているのに、私は呼ばれる度になんの躊躇もなく行っていて。
もし本当に郁也が“そういうこと”をしようとしたら、私はどうするつもりなのだろう。
それなりに経験を積み重ねてきたし、そんなつもりじゃなかったのに!なんて言うほど純情でも子供でもなければ小悪魔でもない。
つまり私は--。
「そ、そんなことより、早くカラオケ行こう。もうフリータイム始まってるよ」
頬だけじゃなく顔全体がカアッと熱くなったのは、一気に喉に流し込んだスパークリングワインのせい。


