「そう? 俺は嬉しいしかないけど」
だから私も、なにも気にしていないフリをして笑う。たまたま隣に座っていて、たまたま肩があたっただけ。ただ、それだけ。
初投稿をしてからこの三か月で投稿した曲は、『高嶺の花子さん』と『わたがし』と『青い春』。
全曲制覇するのならインディーズ時代の曲から順番に撮影していくのが一番わかりやすいと思っていたけれど、最初はメジャーデビュー後のシングル曲を歌って再生回数を上げるという郁也の作戦だ。
郁也は音楽のことになると、とにかく一直線で妥協を許さない。
インディーズ時代の曲もアルバム曲もカップリングも、早く歌いたい曲がたくさんあるのに、郁也が納得できるまで何度も練習を重ねてから撮影に挑むので、ひとつの動画を完成させるのに一ヶ月はかかっていた。
「次はなに歌う? 今から練習始めたら動画投稿できるの十二月だし、冬っぽい歌にしようか」
「シングルなら、『思い出せなくなるその日まで』とか?」
「いいね」
郁也はいつまで動画投稿を続けるつもりなんだろう。
大学卒業までかな。全曲制覇すると話していたのは本気なのかな。あの時は酔っていたから深くは考えずに頷いてしまったけれど、一曲に一ヶ月かかるとしたら、全曲制覇するのに何年かかるかわからない。
全曲って、今のところ何曲あったっけ。
まあ、別に何年かかってもいいけれど。


