いつの間にか無意識に止めていた呼吸を再開するため、そして上がった体温と騒がしい心臓を落ち着かせるため、大きく深呼吸をした。


動画配信サイトなんて誰に見られるかわからない。そんな度胸はないし、彼にも言った通り、私は人前で歌うほどうまくはない。


「フミ、やめとけって。ビックリしてるじゃん」


彼の左隣に座っていた男の子が、少し呆れたように笑いながら、右腕を彼の肩に回した。


“フミ”と呼ばれた彼は、はあ、と小さくため息をつくとテーブルから手を離し、ソファーに深く腰掛けた。そして、配られたおしぼりを持つこともなく、盛り上がっている彼らを見ることもなく、ただ不機嫌そうにそっぽを向いていた。


私もおしぼりを持って立ち上がることはしなかったけれど、ノリが悪いと思われるのも嫌なので、手拍子だけした。


手拍子よりも、深呼吸をしても落ち着いてくれない自分の鼓動の方が少しだけ速かった。あんなに真っ直ぐ、真剣な目を向けられたのは初めてだったから。


カラオケが終わるまでの残り一時間、私の目はちらちらと彼を見ていた。