君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



慌ててついていくと、二階の、階段から一番近くのドアの前で止まり、鞄から取り出した鍵を鍵穴に差し込んだ。


ガチャ、と音を立てて開いたドアの先に見えたのは、二畳ほどのキッチンと二ドア式の小さな冷蔵庫。その奥にはすり硝子の引き戸がある。


玄関で靴を脱いで足早に歩いていく郁也を追って中へ入ると、引き戸の先には十畳くらいのリビングがあり、そこにはテレビ、テーブル、その上にノートパソコン、マットレス、雑誌やDVDが敷き詰められている五段の本棚、そしてエレキギターが二本置いてあった。


ひとつだけ空いているギタースタンドは、郁也の背中にあるアコギの帰りを待ちわびているようにポツンと立っていた。


キッチンには調理器具も食器も置いていなかったし、なんていうか、音楽一色であまり生活感がない。なんとなく、郁也らしいと思った。


「一人暮らしだったんだ」


「地元、豊橋だからな。通学大変じゃん」


どうぞ、と言った郁也はマットレスの横にショルダーバッグを置いて、というより放り投げて、ギターケースとカメラが入っているバッグは静かに置いた。


テーブルの前に片膝を立てて座ると、バッグから取り出したカメラとノートパソコンをUSBケーブルで繋いだ。