君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



撮影が終われば解散するのかと思っていた私に、「まだ時間大丈夫だよな?」と言った郁也は、私の返事を聞かずに地下鉄名城線に乗った。


まあ、まだ十五時を過ぎたばかりだし、今日は予定を入れていないから問題はないし、別にいいけれど。


わざわざスタジオで撮影をしたくらいだから、動画投稿もまたどこかの場所でするのだろうか。そう思いながらついて行くと、郁也が降りたのは自由ヶ丘駅だった。


時間は大丈夫かと聞かれたから、まだ解散するわけじゃないと思っていたのに、やっぱり私のことを家に送ってからひとりで動画投稿をすることにしたのだろうか。


無言のまま歩き続ける郁也は、私がいつも利用している二番出口ではなく一番出口へ進み、駅を出てから五分ほど歩いたところで、三階建てのクリーム色のマンションの前に足を止めた。


「ここ、どこ?」


「俺んち」


「え?」


俺んち、って、郁也の家?


本当に私の家から近いんだ、とか、一人暮らしなんだ、とか。思うことはたくさんあるけれど、今一番大きな問題はそんなことじゃなくて。


郁也の家に行くの? 今から? 私も?


心の準備をする暇もなく、初めて講義室へ連れて行かれた時と同じように、私に見向きもせずにタンタンと軽快な音を立てて階段を上っていく。