わからないのは、どうして今日初めて会ったばかりの私に突然そんなことを言ったのかということ。


あまりにも真っ直ぐ目を見つめてくるから、じわじわと体温が上がっていく。


「back number好き?」


なかなか答えない私にしびれを切らしたのか、次の質問を私に投げかけた。


もうひとつわかったことは、彼はback numberが好きらしいということ。私も好きだけれど、さっき歌ったのは全く違うアーティストの曲で、どうして私なのかはわからないまま。


彼はきっとイエスかノーを求めているのだろうけれど、詳細を聞かなければ答えようがない。


「好き、だけど。……え、と。ライブとかしたいってこと?」


「いや、ライブじゃなくて、音楽動画作って投稿したいんだ」


流れていた音楽がサビに入る頃、みんながおしぼりを持って一斉に立ち上がる。もうかなり出来上がっているようで、サビに入る前からおしぼりを回していた。


動画? 投稿?


学校祭で、この軽音サークルの人たちがステージ上で演奏や歌を披露しているところを見たことはあるけれど、彼が言っているのは動画配信サイトにでも投稿したいということだろうか。


それなら答えはひとつしかない。


「動画って……無理だよ。私、人前で歌うほどうまくないから」