君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



言われた通り黙ってついていくと、連れてこられたのはレンタルスタジオだった。


スタジオといえば、狭い部屋に楽器や音響の機械が置いてあるイメージだったけれど、おそらく三十畳ほどある広い室内は床も壁紙も天井も真っ白だった。


室内に足を踏み入れた時、大きな窓から差し込む太陽の光が白い空間に反射して境目が見えなくなり、一瞬、まるで自分が宙に浮いているかのような感覚に陥った。


右手を額のあたりにかざして照り付ける太陽を隠し、何度かぎゅっと瞬きを繰り返すと、椅子やギタースタンドが姿を現した。


「なんかすごいね。スタジオって、こんなに広いところあるんだね」


「探したんだよ。お前、広いとこの方がよく声出るから」


なるほど。確かに、カラオケでも狭い部屋だとうまく声が出ない気がする。


郁也に初めて話しかけられた日は、人数が多かったから、このスタジオと同じくらい広いVIPルームだった。


「バンドの時もここで練習してたの? あ、でも、アンプとか置いてないよね」


キョロキョロと室内を見渡しても、楽器も音響の機械も見当たらない。


「いや、練習っていうか撮影はスタジオでやってたけど、ここではない」


「そうなの? なんで今日はここにしたの?」


「お前のイメージ」