君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



***


「ヤバイ、めっちゃ緊張する」


「なんでだよ。失敗したら撮り直せるんだから緊張することねぇだろ」


「失敗したらどうせ『時間ねぇんだぞ』とか言って怒るじゃん」


「よくわかってるじゃん」


郁也と練習を始めてから二ヶ月が過ぎた七月の始まり、ついにこの日がきてしまった。


撮影日は特に決めていなかったけれど、今日になった理由は、日曜日なのに珍しく郁也のバイトが休みだったから。


この日に撮るからな、と郁也の中ではすでに決定事項になっているらしい日にちと時間を伝えられただけで、私の予定を聞かれることはなかった。


十三時に、私たちの家の最寄り駅である自由ヶ丘駅の改札前で待ち合わせをした。


郁也はいつも使っているショルダーバッグの他に、黒のギターケースを背負い、黒の大きめのバッグを左手に抱えていた。


私はカゴバッグひとつしか持っていないので、どれか持とうかと言ってみたけれど、重いからいいよ、と返された。


撮影も講義室でするのかと思っていたのに、そんなわけねぇだろ、と言われて。じゃあカラオケかと聞いてみたら、他の部屋から音漏れするだろ、と言われて地下鉄に乗って。


最終的に「ちょっと黙ってついてこい」と、今日はギターを持っていないのに怒られて。いや、手に持ってはいなくても背負っているか。