君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



いや、高校時代からカラオケには頻繁に行っていたけれど、今までのように騒いだり採点をして遊んだりすることはなく、郁也に言われたことを思い出しながら、ただただ歌うことに集中していた。


そんな毎日を一ヶ月繰り返す頃には、毎日の練習の成果もあってか、自分でもわかるほど安定して声が出るようになった。


動画投稿なんてできないとあんなに言っていた私も、高校時代は彩乃に乗せられたけれど、今回はまんまと郁也に乗せられてしまったわけで。どうも私は調子に乗りやすいらしい。


「よし、帰るか」


外が暗くなると、ギターを置いて立ち上がる。郁也の家は『お前んちからけっこう近い』らしく、通り道だからと言って、練習日は必ず私を家まで送ってくれていた。


ひとりの時は地下鉄に乗ることも多いけれど、なんとなく、歩くのが好きだからいつも徒歩で帰っていると言ってしまって。


徒歩三十分の距離が郁也にとって近いのか遠いのかは未だにわからないけれど、文句ひとつ言わずに「俺も歩くのけっこう好きだよ」と言って一緒に歩いてくれていた。