君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



仰る通りだ。


私もだいぶ言い返せるようになったけれど、郁也はいつもこうして正論という名の豪速球をドストレートに投げてくるから、私はそれをキャッチすることに精一杯で投げ返すことができない。


時々キャッチができずデッドボールになることもある。


なぜなら郁也のギターは初心者の私でもわかるほど上手だし、練習を怠っていないことがよくわかるから。


ギター演奏の動画をSNSに投稿しているわけだし、人に聴かせるために普段から練習を積み重ねて努力しているのだと思った。


自分のことを棚に上げて怒ってくるならもっと言い返せるのに、非の打ちどころがない。


「そう! 今のすげー良かった。今の感じ覚えといて。もう一回やろう」


ああ、これだ。もうひとつにして最大の、私が言い返せなくなってしまう理由。


郁也はただ厳しいだけじゃなく、出来が悪いとめちゃくちゃ怒られるけれど、良かった時はこうしてめちゃくちゃ褒めてくれる。


そして褒めてくれたあとは、まるでクリスマスプレゼントをもらった子供みたいに無邪気に笑う。


褒められるのが嬉しいのか、その顔をもっと見たいのか。


前者だと自分に言い聞かせながら、郁也との練習がない日は、彩乃を誘ったりしてカラオケに通うようになっていた。