小さな仲間意識は芽生えたものの、話しかけることはないまま今に至る。


良く言えばクールだけれど、悪く言えば不愛想な印象で、正直話しかけにくい雰囲気を醸し出していたから。少し目にかかっている、ハイライトが入っているブラウンの長い前髪が余計にそう感じさせるのだろうか。


彼ももちろん私に話しかけてくることはなく、この六時間で一言たりとも話していなかった。


そんな彼が突然テーブルを挟んで向かい側のソファーから立ち上がり、テーブルに両手をついて、身を乗り出して、ちょうど正面に座っていた私の目を、少し癖のある前髪の隙間から真っ直ぐ捉えた。


驚いたのは私だけではなく、隣に座っていた彩乃も、彼の周りにいる男の子たちも、ポカンと口を開けたまま私たちに注目している。彼はそんな視線も全く気にすることなく、真っ直ぐ私の目を見て続けた。


その真剣なまなざしは、この飲み会にはとても不似合いで。


「聞いてる?」


私の曲の次に入っていた、サビでタオルを回す、カラオケで定番の曲が始まる。


「……え」


俺のバンドで歌ってほしい。


彼が言った台詞が、頭の中でリピートされる。


わかったことは、彼はバンドを組んでいて、歌ってほしいというのはおそらく本気だということ。