郁也の車に乗るの、あの日以来だ。
車内の香りに懐かしさを感じたけれど、座ってみると次は違和感を感じて、もう私の場所じゃないのだと思い知らされた。
背もたれの位置が、少し違うだけなのに。
空港に着くまでの約一時間、車内に流れていたのは、最近よくテレビに出ている新人アーティストのデビュー曲だった。
郁也は今、このアーティストが好きなのだろうか。私はテレビで聴いたことがある程度で、あまり知らない。
寂しい気持ちがないと言えば嘘になるけれど、同時に少し安心もした。今かかっているのがback numberの曲だったら、私はきっと、ギリギリのラインでおさえている涙をこぼしてしまうと思うから。
郁也はよく喋って、よく笑っていた。だから私も、たくさん喋ってたくさん笑った。
またあの頃みたいに戻れる? まだ大丈夫?
そんなことは一切思わなかった。
全部全部、わかっていた。郁也の嘘に気付いていた。
未来を示す言葉をくれていたのは、単なるご機嫌とり。「次はなに歌う?」と言えば、私が笑うと思ったんだよね。
もう私のためにアコギを弾いてくれることはないんだよね。もう私とふたりで動画投稿をするつもりもなかったんだよね。単に、気まずいその瞬間を回避するための嘘。


