「おはよ。早起きだな」
寝室から出てきた郁也が、大きなあくびをしながら言った。
「荷物全部まとめたか確認しないと」
本当は眠れなかっただけなんだけど。
「そう、だな」
小さく言って、窓の外を見た。つられて私も目を向けると、ずっとモノクロだったはずの景色は、太陽によって明るく照らされていた。
モノクロに見えていたのは、十階建てのマンションのせいじゃなかったのかな。
今日は四月中旬並の気温だと、さっきのニュースで言っていた。それでも桜が開花することはないだろうけれど。
「……今日は予定入れてないから、空港まで送ってく」
私の方を見ずに言って、着替えを持って洗面台の方へ行った。
ずるいなあ。
玄関でバイバイしてくれたら、背中を向けたままリビングにいてくれたら、ヘッドホンをつけてエレキギターを弾いてくれていたら、少しは嫌いになれるかもしれないのに。
最後の最後まで悪者になりきれないところが、郁也らしいけれど。
もう段ボールは送ったから、手荷物はキャリーバッグひとつだけ。
北海道へきた日もそうだったっけ。去年の今頃は、寒い寒いと肩をすくめていたっけ。
あの日より気温は遥かに高いはずなのに、どうして今の方が寒く感じるのだろう。
キャリーバッグをトランクに積んで助手席に乗った。


