君にさよならを告げたとき、愛してると思った。



明け方まで作業をして、起きたのは昼前だった。
郁也は帰ってきていない。もう何日会っていないのかな。私が出ていく日まで--明日まで帰ってこないつもりだろうか。


スマホのメッセージアプリを開くと、郁也の履歴はずいぶんと下になっていた。


《最後の日は一緒にいたい》


返信はこなかった。このまま帰ってこなかったら、いい加減諦めがつくのだろうか。


そう思っていた私の耳に玄関の鍵が開く音が鳴ったのは、二十時を過ぎた頃だった。


リビングのドアが開く。姿を現した郁也は、コートとジャケットを左手に持ち、右手でネクタイを緩めている。


「……おかえり」


なぜかソファーから立ち上がってしまった私は、座り直すことも、郁也に駆け寄ることもできなくて。


ソファーに近付いてきた郁也は、左手に持っているそれをソファーの背もたれにかけることなく、私に差し出した。


反射的に受け取ると、小さく微笑んで、私の頭にポンと手を乗せた。


「ただいま」


笑ってくれたの、いつ以来だろう。


当たり前に見ていたはずの笑顔も、名古屋時代からのルーティンも、私の涙腺をひどく刺激した。


それをぐっと飲みこんで、目を細めて口角を上げた。


「ご飯、食べる? 残り物しかないけど」


「食う食う。腹減った」